変大佐の備忘録

「こころのなか」

【Rewrite】こたことは何故ぼくらの胸を詰まらせるのかPart2【〜Terraまで】


 これは反則。袖引っ張りとかいういじらしさの極致にある仕種をこんなところで持ち出されたら惚れるに決まっている。小鳥は確信犯(誤用)なのか?
 こんな風に、瑚太朗にめちゃくちゃになるまで抱きしめてもらいたいシーンが小鳥ルートではよく見られる。でも瑚太朗が真実と向き合う前に抱きしめると小鳥はたぶん本当に壊れてしまうんだよなあ……
※画像を提供してくださったリブレさんに深く感謝申し上げます。PC版を所持していないので直撮りを載せるわけにもいかず……
※当記事は【Rewrite】こたことは何故ぼくらの胸を詰まらせるのかPart1【〜小鳥ルートまで】 - 変大佐の備忘録の続きです。こちらをお読みになってからお越しください。また、今回からはRewrite本編全体を通したネタバレを含みますのでご容赦を。
 今回はRewrite中級者向け。なかなかに難解な部分を取り扱いますので覚悟してお読みください。

こたことは二周目からが本番

 これはこたこと推し界(?)の中ではほぼ常識に近いのだが、小鳥ルートをプレイしてから他のヒロインを攻略するためにもう一度共通ルートからやり直すと、小鳥の言葉ひとつひとつにとんでもなく重い意味が込められていたことに気がつく。

「瑚太朗君がいいと思うのなら、やればいいと思うの」
「それに本当にいい出会いになるかもしんないし」

「神戸小鳥さんの好きな人は?」
『自分…』

『今は…毎日せいいっぱい…』

『ねえ、瑚太朗君?』
眠ったままの小鳥が俺に質問した。
『いろんなもの…見てね』
『あんまりね…閉じこもらないでさ…』

 開始直後からオカ研全員集結までの間でも軽く拾ってこの程度はある。
 うっかり一度見た共通ルートまでの小鳥ルート分岐イベントなんかを読んでしまうと、すべて拾い集めるのが大変なほど今まで見逃していた小鳥の思いやりが身に染みて、他のヒロインに現を抜かすことに罪悪感すら覚えるのだ。それでもRewriteという物語を前に進めるために、プレイヤーが涙をのんで小鳥のことを諦めると……

たとえあたしを選ばなくても

 ちはやルートに進めば、小鳥をほっぽり出したことを吉野に失望される。瑚太朗も「今だってあいつのことは好きだ」と明言さえする。それでも諦めざるを得なかったのは、ちょっとしたボタンの掛け違えのようなものだった。たまたま、状況がちはやに傾いただけ……と。
 朱音ルートでは、朱音さんが直々に小鳥へ調査の手を伸ばしてくれる。さらに、救済に伴う崩壊の、その間際まで間接的に見守ってくれる。黄金鳥を飛ばして。おそらく、瑚太朗が人工来世へ旅立った時、彼女は……
 静流ルートでは、命の手綱を静流へ繋いでくれる。「ごめんね」と。「さよなら」と。涙をのんで、瑚太朗を縛っていた見えない糸を断ち切る。その後の彼女に、残るものはあったのだろうか?
 たとえ彼女を選ばなくても、小鳥は瑚太朗に人生の全てを捧げてしまう。悔しくないのだろうか。取り返して、我が物にしたいと、どうしてそう思わないのだろうか。彼女はそれができるはずなのに。その答えは、もう少し先送りにするとしよう。

良い記憶のために死ね

 Moon編では、こたことの幸せな未来がひとつ示唆された。結婚である。

ある時、俺は小鳥と所帯を持っていた。
所帯を持つとは、結婚したって意味だ。
最高だった。
あの小鳥と、俺が。
もちろん簡単なことじゃない。
俺はすごく頑張って、その結果をものにしたんだ。
――Moonより

……いや、あまりにも唐突過ぎる。もっと段階を踏んで我々を喜ばせてほしい。おデートとか。

 しかし収穫はある。小鳥ルートの枝にいた彼らは確かに報われたということだ。だってあれだけ頑張ったんだ、二人の関係くらい報われたっていいじゃないか。

 だが、それで終わってくれるほどRewriteという物語は甘くない。小鳥と瑚太朗が結婚する世界は確かに存在した。したのだが……彼らが彼ら自身の幸せに現を抜かすと地球は最後のチャンスを逃してしまうということもまた、明らかになってしまうのである。

…わかっている。
オカルト研究会という安寧…
理論が完成した今、それにより生まれた可能性に、安寧はないだろう。
それは、空白が生んだものだからだ。
――Moonより

 Moon編はオールスター勢揃いの本当にアツいシナリオだが、Terraまでクリアしてから見返すとある残酷な未来が確定したターニングポイントとして見ることもできる。
 命の理論が導く無数の可能性の中で、地球に送り出すことができる未来はたった一つだけ。リライト能力を持ち、ガイアとガーディアン両方に属せる素質を持ち、篝に接触する機会がある瑚太朗には、ヒーローになってもらう道しか残されていない。「良い記憶」であると認められなかった彼らの、彼ら自身の歩んできた道筋は、幸せは、地球へ送られるときになかったことにされてしまう。

地球…故郷。
遠く離れていた母星。
滅びて活力を失い、死んだ星。
やり直すんだ。
だけどそこには、あの篝はいない。
この俺もいない。
祈ることしかできない。
願うことしか。
見えざる手を伸ばす。
せめて今の気持ちを、刻みつけておかねば。
記録せねば。
だがいくら言葉を書き込もうとも、万能の力がそれをたちどころに分解していく。
ああ…
奇跡は思いも心も残してはくれない。
――Moon・EDより

 この儚さこそが、やっと手に入れた幸せさえも不条理な運命に押し潰されてしまうことこそがこたことの魅力でもあると筆者は考えているのだが、これをこたことの魅力に含めるかどうかは、こたこと推しの中でも意見が分かれている[要出典]
 だが忘れてはならない。小鳥を含めた瑚太朗を取り巻くえにしがなければ、瑚太朗はあのヒナギクの丘で気まぐれに「■」を書き入れることはなく、またあの丘を最後まで防衛することもできなかったのだ。
 忘れてはならない。「第四の壁 - Wikipedia」の向こうにいる我々は、彼らの働きを、輝きを、それが確かに存在していたことを、決して忘れてはならないのだ。

瑚太朗の原点にあるもの

 舞台はTerraへと移る。この章はもはや答え合わせのようなもので、月にいた瑚太朗もおそらく辿ったであろう幼少〜少年時代までを詳らかに知ることができる。
 そこに小鳥はいる。真・小鳥ルートが、ここに開幕を迎えるというわけだ。
 小鳥ルートは謎を多く残すルートだった。瑚太朗の性格が変わった、瑚太朗が昔探検ごっこをしていてその時に森へ入った、女の子を助ける時に怪我をした……などなど。このあたりの考察はちょっと「Rewrite Terra 考察」とかでググると詳細に調べてくれているブログがいくつも見つかると思うので詳しくは省くが、実は記憶喪失はガーディアンによる社会復帰のための処置だったとか、ロリ朱音ロリ小鳥でWおにロリだったとか、いくつもの驚愕の真実が明らかになる。

ハリネズミのジレンマを捻じ伏せろ

 Terraの瑚太朗と小鳥のやりとりは――あの小鳥ルートや共通ルートで感じた和気藹々さは何処へやら、ナイフをお互いに突きつけているかのような刺々しい会話が続く。正直、Terraで登場した小鳥は第一印象で嫌いになるくらい刺々しいし、中学生の瑚太朗なんか実際に周りにいたら絶対に関わり合いになりたくない。(彼の心情は筆者のような日陰者にとっては非常に共感できるものではあるが)
 共通ルートで見るやりとりよりも格段に二人の(見かけ上の)距離感が離れたことで、分かりにくかったこたことの隠れた側面がひとつ立ち現れてくる。
 それは、どこまでいってもお互いがそれぞれ個として独立したままというところである。互いにぶつかり合って干渉しているように見えて、その実お互いに自分の寂しさを埋めるために動いているだけに過ぎない。それを示す顕著な例は、それぞれの訴えから垣間見ることができる。

【小鳥】「篝さんを助けないといけないって、書いてあったから…」
【小鳥】「そうしないと、ふたりを助ける力も得られないって」
(中略)
【瑚太朗】「それは生き返ったんじゃない! ただの魔物だ! ゾンビだよ!」
【小鳥】「そんなことないです、生き返るって…時間はかかるけど…いつかっ」
【瑚太朗】「亡くなった人が簡単に生き返るか!」
【瑚太朗】「おまえ、賢い子なんだろ? 間違ったことをしてるって、わかるだろ?」
(中略)
【小鳥】「 ずっと悲しいことばっかだったのに、どうして優しくしてくれないのっ」
【瑚太朗】「もともと俺たちはこんなだったろ」
【小鳥】「このまま味方もなしに生きろって言うの!?」
【瑚太朗】「…」
【小鳥】「お父さんとお母さんだけが、優しかったのに…」
――Terraより

三人の子供。
仲間を裏切ってまで助けた。
居場所を失いかねない判断だったが…助けた。
納得できなかったからだ。
俺はもう、どこの誰にもなれないんじゃないかという不安。
――Terraより

【篝】「では殺しましょう」
とんでもないことを言った。
リボンがひとひら、鋭く舞った。
【瑚太朗】「バカ待っ…ッ!」
朱音に向かって飛んだ一振りを、直前で腕で止めた。
(中略)
【篝】「だからこそ、手段を選ばずに邁進する必要があるはず」
【篝】「しかしあなたの行動には、自ら課した多くの制限があるように思えてなりません」
(中略)
森で見聞きしたことは忘れがたいものだろう。
篝の第一印象は、それほど神々しい。
何らかの方法で、それを人に伝えることも可能かもしれない。
【瑚太朗】(それで、全てが無に帰したとしても)
構わないと思った。
――Terraより

 小鳥が両親を“生き返らせ”ようとするのは両親に第二の人生を与えるためではなく両親のあの優しさを再現するためであるし、瑚太朗がヤスミンや朱音や小鳥をはじめとする無力な者たちを、たとえその過程で目標の障害になろうともあくまで助けようとするのは彼らの今後を考えてというよりも自分がそれを排除するのに耐えられないからである。瑚太朗も、小鳥も、きっと自分の大切なものを守るために動いている。その点では、共通ルートのお互いを傷つけまいとして上滑りする会話と、Terraで描かれるお互いを敢えて傷つけようとして喧嘩になる会話に、本質的な差はないと言えるだろう。
 だが、彼らは必死に歩み寄ろうとしていた。「普通」の人間関係より何倍も傷つきながら、それでもしっかりとお互いを向き合っていた。それはさながら、お互いをお互いの針で貫き通しながらもなお温もりを求めるハリネズミのように、不器用でも必死な模索だった。

決別

 Terraの瑚太朗は本当に孤独だと思う。ほし・・に恋したヒトが払う代価は、あまりにも大きすぎた。同時に、Terraのこたことは本当に切ないとも思う。瑚太朗という人間は、寄り添ってくる全ての人間を突き放してでも自分だけが奈落に落ちねばならない使命を背負っていると言っても過言ではない。家族、友人、仲間――その中にはもちろん、まだ未熟なドルイドである小鳥も含まれる。
 小鳥の両親を射殺し、自らも小鳥との縁を断つということは小鳥にとって依り代をすべて失うことと同義である。それが幻想であれ冷たい関係であれ。しかしこの選択は、冷静にお互いのためを考えるならば疑いようもない最適解でもある。瑚太朗の目標達成が目前にまで差し掛かってくると、ドルイドとして未熟な小鳥はもはや足手まといになってしまう。共倒れを避けるため、そして……小鳥を両親という呪いから解き放ってやるための、これは一挙両得の冴えたやりかたである。
 ……でも、こうも思うのだ。このふたりにとってそれが最善の選択になってしまうのが、本当につらい、と。
 ここの悲しいところは、瑚太朗と小鳥が最初から最後まで人間として付き合っていけた世界は本編中でTerraだけであるというところではないだろうか。
 「ポチ」の扱いについては、こたこと推しの筆者ではあるけども月篝に報いてとなる道しかないように思われる。
 その道程に、小鳥というひとりの魔物使いが寄与しているならば、Terraのこたことにもひとつの決着を見ることができるのではないだろうか。


 過酷だ……過酷すぎる……あんまりだ……こんな……こんな終わり方って……

……まさか、こたことが本編だけで終わるとでも?

次回最終回。Harvest festa! と結びです。
hentaisa.hatenablog.com